ニュージーランドの南島、クイーンズタウンでは、星空を観光資源として扱っている。
星空観賞ツアーなんてものもあるくらいで、星明りを損ねないように町の灯りも控えめである。
ましてや、町外れの山を越える道路などは街灯もなく真っ暗で、光るものと言えば反射塗料が塗られた道路脇のポールと、藪の中のポッサムの目だけだった。
そんな山道で何をしていたのかというと、自動車の走行試験のために、山上の試験場とホテルとを、毎日車で通勤していたのだ。
自動車会社で開発の仕事をしていた頃の話である。
毎日、暗くなってからホテルに戻っていたが、その日は特に暗かった。新月だったのだ。
「おい見ろよ、星がすごいぞ」
助手席の先輩の一言で、峠の転回場に車を停めて星を見ることになった。
満天の星空。
普通、町の方角はぼんやり明るくなるものだが、人の灯りの気配はどこにもなく、辺りはすべて夜空だった。
南半球の見慣れない星たちが、ドームのように頭上に広がっている。
皆で道路に寝転がって星空を見上げた。部長も寝ころんでいた。
「お前ら、彼女つれてきたらイッパツだぞ」
なにがイッパツなのか。
「でもめちゃくちゃ寒いですよ」
「バカヤロー、あっためてやるんだよ」
男職場である。
帰国後、「すごい星のきれいなところでさ~」と妹に写真を見せたところ、「テカポじゃん。なに、知らずに行ったの?」と呆れられた。

